『覇王ゲームスペシャル[69] 機動戦士ガンダム外伝Ⅰ 戦慄のブルー テクニカルガイドブック』
より、千葉智宏氏によるオリジナル短編小説「蒼き死神の系譜」をお送りします。
前回はシーン4まででしたので、今回は5~8です。
ゲーム版設定と微妙に違う箇所があるので、それを比べてみるのも面白いかと。
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シーン5・ユウ/U.C.0079.11.7
オデッサ作戦。
地球連邦軍による、大反撃作戦が開始された。
作戦に使用されたのは、ほとんどが従来の兵器だったが
その物量はジオンを圧倒するのに十分だった。
ユウたちモビルスーツ・パイロットは、出来立ての新型モビルスーツ”ジム”で
参加することになったが、
ジムの存在をジオンに知られるのを恐れた上層部の指示により、
ただの後方支援として扱われる事になってしまった。
戦いは連邦軍の圧勝に終わった。
が、ジム部隊の活躍は、惨憺たるありさまだった。
敵との交戦で破損した機体が3機。
遠距離からの砲撃に慌てふためき転倒、頓挫した機体が6機。
満足に敵と戦うことなく、部隊は崩壊したのだ。
ミノフスキー粒子下での近接戦闘を主眼において開発された兵器である
モビルスーツを後方支援に回すという愚行。
これはジムの性能の問題ではなく、運用ノウハウの問題であった。
連邦は、もっとモビルスーツの戦略を学ばねばならない。
オデッサ作戦の後、モビルスーツ部隊は解体され
隊員たちはモビルスーツの教官として各地に配属されることになった。
しかし、ユウだけは違った。
部隊でトップクラスの成績を残していたユウは、
モビルスーツの運用データを集める新設実験部隊への配属となったのだ。
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シーン6・アルフ/U.C.0079.11.7
オデッサ作戦が開始された、この日。
アルフはブルーの最終調整に追われていた。
「今日は多くの人が死ぬな…。ブルーに何かが起きなければいいが」
クルスト博士の意味深なつぶやきを、アルフは不審に思った。
そして、それは突然起こった。
激しいターボ音がブルーからうなり、研究所に響き渡る。
「すぐにブルーのエネルギーを切るんだ!”EXAM”が暴走する!」
博士の叫びの意味を理解すのに一瞬を要したアルフ。
その一瞬の遅れが、恐るべき事態を引き起す。
パイロットも乗っていないはずのブルーが突然動き出し、暴走したのだ。
工場内で破壊の限りを尽くしたブルーの暴走は、きっかり5分間、続いた。
事態が収まった後、アルフはクルストを追求。
クルストはEXAMシステムの”暴走”について語りだした。
・EXAMシステムは驚異的な性能を発揮する変わりに、マシンに強い負担をかけてしまう。
そのため能力をセーブするプログラムをしているが、”暴走”が始まると、そのタガも外れてしまう。
・EXAMシステムは戦場の状況を敏感に感知しているらしい。
その副作用として、周囲で多くの者が死ぬと、その魂の叫びに感化され、
システムが暴走してしまう。
・暴走が始まると、機体がオーバーヒートするまで狂い続ける。
パイロットからの制御も受け付けず、それどころか
パイロットの精神を破壊してしまうことがある。
・ジオンでは実験では3人が発狂した。
・戦場で人が多く死ぬのは当たり前であり、このままでは兵器として使えない。
ジオンでもそう判断された。
それを打破する答えを求め、博士は連邦に亡命してきた。
ブルーは、オデッサで死んだ者達の魂の叫びに感化されて暴走したのだ。
アルフは、自分が心血を注いだブルーに、そんな欠陥システムが積まれていることに落胆する。
同時に、一つの決意を固める。
欠陥があるなら、実戦をとことん重ねてデータを集め、改修するしかない。
モビルスーツの実戦データ収集を目的としたモルモット部隊が創設されるはずだ…
彼らの側なら、常に魂の叫びが存在するだろう。
連邦本部に連絡を取り、モルモット部隊の次の出撃予定を聞きだすアルフ。
彼らが戦う戦場にブルーを運び込み、EXAMの暴走の謎を解くのだ。
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シーン7・ユウ/U.C.0079.11.29
ジオン基地へ夜襲を仕掛け、
モビルスーツの夜間戦闘データ収集を行ったモルモット部隊。
作戦を終え、部隊が撤収を開始した時、そいつは現れた。
急速接近する、謎の蒼いモビルスーツ。
その特徴はジム・タイプのようだが
ユウたちのジムとはケタ違い機動性をみせ、
全身に搭載した火器で次々に友軍機を撃破していく。
「本当に、人間が乗っているのか?」
ユウは部隊の仲間であるフィリップ、サマナと共に
スリーマンセルで反撃に出るも、恐るべき反応と戦闘能力の前に
苦戦を強いられる。
連携の末、ユウは蒼いジムのコックピットに、ビームサーベルを突き立てる。
倒した、と思った矢先、蒼いジムはバーニアを全開に噴かし、
逃げ去ってしまった。
奴は恐らく、何かのデータ収集が目的の実験機だろう。
データを持ち帰るのが最重要だから、
パイロットがやられても自動帰還するようプログラムされていたのだ。
「…もしかしたら、俺たちは奴のデータ収集に使われたのかもしれない」
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シーン8・アルフ/U.C.0079.11.29
帰還したブルーを見て、アルフは愕然とする。
パイロットが死ぬのは予測していたが、ここまでダメージを受けるのは予想外だった。
モルモット部隊に、とんでもないパイロットがいる。
もしそのパイロットがブルーに乗ったとしたら、
どれほどの力を見せてくれるのか!?
ブルーの実験を続ける上で、欠かせない逸材を発見したアルフ。
部下に研究所への帰還を命じると、彼は連邦本部へと向かった。
ブルーを撃退させたエースパイロットを手に入れるため…
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◆シーン5より
おそらく連邦製モビルスーツ部隊の最初期組であろう、ユウの苦労が伺えるエピソード。
◆シーン6より
EXAMシステムの、幾つもの欠陥が判明するエピソード。
・たくさんの人間の死に反応して発動する、とありますが
ゲーム版の設定では”近くで”という前置きがあったので、
その設定をこの短編小説でも反映するならば、
このころアルフたちはオデッサの近くで研究をしていたことになる。
…オデッサ基地のすぐ近く?一体どこだ。
ほとんどジオンの勢力圏では?
まあ、その辺はあまり深読みしても意味がないかな。
・ブルーの暴走がきっかり5分続いた、とありますが、
ゲーム設定では、ブルー1号機のモルモット隊襲撃事件の後、
アルフが付けたリミッターの作用で5分で停止するようになっています。
短編小説版できっかり5分で止まったのは、なんでだろう?
・「実験で3人が発狂したよ」なんてしれっと言っちゃうクルストと、
「こうなったら実験部隊を犠牲にしてデータ集めたる!」なアルフ。
お前らいいコンビだなw
まじめな会話のはずなのに、クルストのマッドっぷりと
それに負けないアルフの発想が妙に笑えます。
◆シーン7より
ゲームだと、1巻第1話が部隊の初陣のような会話をしてますが、
短編だと既に幾つかの戦闘を経験しています。
…また、ブルーがフィリップ、サマナのビームサーベルを
両手で受け止め、そのまま投げ飛ばすなんて描写があります。
『まさか、メガ粒子をフィールドで形成しているビームサーベルをつかんで、投げるとは…』(本文より)
これにはさすがに吹かざるを得なかった。
◆シーン8より
逸材のパイロットを発見して…
『飛び立つミデアを見送りながら、オレの心は、ウキウキしていた』(本文より)
子供のように喜ぶアルフ。
ウキウキしちゃったんなら、仕方ないね!
◆その他
なぜブルー1号機はユウたちの部隊を襲ったのか。
そして、なぜユウがブルー1号機のパイロットに選ばれたのか。
この辺はゲームでは描写不足でしたが、
今回の短編小説で補完された格好となっています。
ゲームと短編小説、幾つか設定が食い違うところがありますが、
この2点については短編小説版の設定が公式、と考えて差し支えないと思います。
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次回は、『蒼を受け継ぐ者』の攻略本に収録の短編をお送りします。
ニムバスの視点で、回想を交えて描かれるストーリーとなっています。
お楽しみに。
[1回]
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