ゲーム雑誌『電撃王』の2002年8月号に掲載された稲垣浩文氏と牛村憲彦氏へのインタビュー。
当時のガンダムゲーム事情が伺える、貴重な資料と思いUPしてみました。
インタビュー当時のお二人の役職は以下の通りです。
稲垣浩文氏…バンダイビデオゲーム事業部 制作宣伝チーム リーダー
牛村憲彦氏…バンダイビデオゲーム事業部 制作宣伝チーム サブリーダー
参考として、'95年~'03年あたりの主なガンダムゲームは以下になります。
(VSシリーズはカプコン開発ですが、一応)1995年:機動戦士ガンダム(PS)
1996年:機動戦士ガンダム外伝I 戦慄のブルー(SS)
1997年:機動戦士Zガンダム(PS)
ガンダム・ザ・バトルマスター(PS)
1998年:機動戦士ガンダム ギレンの野望(SS)
SDガンダム Gジェネレーション(PS)
機動戦士ガンダム 逆襲のシャア(PS)
1999年:機動戦士ガンダム外伝 コロニーの落ちた地で…(DC)
SDガンダム GジェネレーションZERO(PS)
2000年:SDガンダム GジェネレーションF(PS)
機動戦士ガンダム ギレンの野望 ジオンの系譜(PS)
機動戦士ガンダム(PS2)
2001年:ジオニックフロント 機動戦士ガンダム0079(PS2)
ガンダムバトルオンライン(DC)
機動戦士ガンダム 連邦VSジオン(アーケード)
機動戦士ガンダム 連邦VSジオンDX(PS2)
2002年:機動戦士ガンダム ギレンの野望 ジオン独立戦争記(PS2)
SDガンダム Gジェネレーション NEO(PS2)
ガンダムネットワークオペレーション(PC)
機動戦士ガンダム戦記 Lost War Chronicles(PS2)
2003年:機動戦士Zガンダム エゥーゴVSティターンズ(アーケード)
機動戦士ガンダム めぐりあい宇宙(PS2)
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◆PSの「ガンダム」がひとつの転換点となった
-まず、おふたりが過去に担当してきたガンダムのゲームについてお聞きしたいのですが。
牛村:最初に関わったのが、SFCの『SDガンダムGX』(’94)ですね。それから『SDガンダム』シリーズ、『ギレンの野望』シリーズなど、おもにSLG系を担当しています。
稲垣:僕は最初が’95年のPS版『機動戦士ガンダム』ですね。その後はサターンの『機動戦士ガンダム外伝』3部作(’96~)や、PS2の『ガンダム』(’00)など、担当しているのはストーリー性のあるACT系ですね。
-お二人とも入社当初からガンダムゲームを担当していらしたんですか?
稲垣:いえ、僕は『ガンダム』の前に『スラムダンク』や『セーラームーン』などを担当してきました。当時('90年代前半)、ガンダムゲームは今ほどは売れなかったんですよ。それが、PS版の『ガンダム』で変わりましたね。PSやサターンのユーザーは比較的年齢層が高く、ちょうど”ファーストガンダム”を見てきた世代だったんですよ。PS本体が100万台そこそこの販売台数の時に、『ガンダム』は初回出荷分で30万本近く売れたんですよ。これからはゲームでも『ガンダム』が有力なコンテンツになると、その時確信しましたね。
-32ビット機になってゲームの内容も劇的に進化したと思います。
牛村:例えばSLGというジャンルで言うと、MSとかキャラクター、シナリオの種類を増やすことができましたね。演出面でも、音声やムービーを使えるという点でも大きく変わりました。
稲垣:ポリゴンが使えるようになったのはインパクトがありましたね。社内でデバッグをしていたら他の部署から次々と人が集まってきて、「オレたちはこういう『ガンダム』を待っていたんだよ!」と、まったく話をしたこともない人から握手を求められたりして(笑)。ポリゴンを使ったことが、ガンダムゲームにおける最大の転換点だったと思います。
-CGムービーも画期的でしたね。
稲垣:PSの『ガンダム』では、CGムービーとゲーム中の画面は同じモデルを使っています。当時はまだ技術的に未熟だったので、ムービーではテクスチャを貼ったものを使ってたのですが、ゲーム中ではノンテクスチャだったんです。当時の開発現場では、ポリゴンのモデリングをするために、それを参考にワイヤーフレームを作ったりしましたね。ずっとドット絵を描いていたのが、突然3DCGを作ることになったので、グラフィッッカーはかなり苦心していました。
◆MSのモデリングが毎回違うのはナゼ?
-PS版の『ガンダム』以来、ポリゴンを使った作品が多く発売されましたが、毎回微妙にモデリングが違いますよね。
牛村:ゲームシステムによってモデルの作り方が違うんです。例えば『ギレン』のようにムービー的な演出として見せる場合は、自分でMSを動かすACTよりもポリゴン数を多くできますし、逆にACTではポリゴン数を節約して、リアルタイムで動かす事に専念させます。MS1体分のポリゴン数は、作品のシステムやトーンによって制限が違ってくるんです。
稲垣:毎回同じ”ガンダム”だから、モデルデータは使い回せるように感じるかもしれませんが、ゲームが変わるとシステム的にも変わってしまうので、最初から作ったほうが効率がいいんですよ。それに、電撃ホビーマガジンなどを見てもわかるとおり、MSのデザイントレンドの変化もありまして、そういうものを取り入れたりすることもありますね。
牛村:『Gジェネ』シリーズも、毎回モデルを作り直しています。わかりにくいでしょうけど。
稲垣:グラフィッカーはみんな、限られた時間とポリゴン数の中でかっこよく見せられるように、かなりこだわって作ってますね。
-プラモデルのMSの設計データをそのまま使うような事はないんですか?
稲垣:一度試したことがあるんですけど、データが大きすぎてダメでしたね。プラモデルの設計はCADを使っているんですけど、それは平面の部分も細かく分割されているんですよ。データを開くのに半日かかって、動かそうとしたらコンピューターが止まりました(笑)。
◆ACTとSLGの2ジャンルが人気を得る理由
-お二人がプロデュースしているガンダムのゲームは、牛村さんがSLG系、稲垣さんがACT系に二分されますが、それぞれそのジャンルへのこだわりがあるからでしょうか?
稲垣:僕が担当している開発ラインはACT系が多くて、牛村のラインはSLG系に強い、というのはありますね。それは、お願いする開発会社さんの得意分野でもあるんですが、SLGを作ったことのない相手にいきなり「こんどはSLGを作って」と言ったところで、決していいゲームは作れないですしね。一時は毎月のように、いろんなジャンルのガンダムゲームをリリースしていたこともありました。残念ながら売り上げはかんばしくない作品もあったのですが、『ギレン』や『Gジェネ』などのSLG系と、『外伝』や『Zガンダム』といったACT系は突出して売れたんですよ。それで結果的に、最近のガンダムゲームはACT系とSLG系が中心になったと思うんです。
-おふたりは、お互いのプロデューススタイルに対して、どのように見ていますか?
牛村:『外伝』などのオリジナル作品で、制限のある中で新しいエピソードを生み出す稲垣の手腕には感心しています。『ZEONIC FRONT』を担当して、その苦労がよくわかりました。
稲垣:牛村はゲームの細かいシステム部分までしっかり見ていくんですよ。ディレクターに近い感じでのめり込む、そんなプロデュースをしていくのは、かなり大変だと思います。
◆ガンダムシリーズにおけるジェネレーションギャップ
-ガンダムゲームの原作としていちばん人気が高いのは、やはり”ファースト”でしょうか?
稲垣:そうですね。ただ、20年以上の歴史を持つシリーズですから、『Gガンダム』や『ガンダムW』から見始めた世代も当然います。
牛村:『逆襲のシャア』以降や”平成ガンダム”は認めない、なんて人もいますからね。
稲垣:でも、『G』とか『W』でガンダムゲームに入った方々でも、改めて”ファーストガンダム”に戻っていくみたいなんですよ。『ギレン』にも20歳前後の若いユーザーさんが多いのですが、みなさん”ファースト”をあとから見ているんでしょうね。それに、『SDガンダム』から小学生のファンが流れてくるケースもあります。
牛村:「好きなガンダムシリーズは?」というアンケートを取ると、”ファースト”と『Zガンダム』が常に人気上位に上がってきます。
-最近はガンダムファンの年齢が上がってきて、プラモデルやゲームにお金を使えるユーザーも『Z』世代にシフトしつつあるとか。
稲垣:今の20代あたりが『Z』から入ってきた世代ですね。ですから『Z』をゲーム化して欲しい、という声はよくいただいています。
◆ゲーム独自のエピソードはすべてサンライズのお墨付き
-『ギレン』や『Gジェネ』では、いろいろな作品からMSやキャラクターが出演しますが、そこに登場するユニットはどのように決めていくのでしょうか?選択は大変では?
牛村:まず、映像化されている作品のMSやキャラクターは優先的に登場させますね。あとはクスコ・アルなどの小説版オリジナルや、プラモデルの『MSV』
などからピックアップしていきます。それから各作品のつながりやユニットの強さを調整していくんです。
稲垣:ガンダムのストーリーは、何月何日にこんなことが起きた、という歴史がしっかりしているんです。アニメ制作のサンライズさんは、その年表のすき間を補完するように『第08MS小隊』などのOVAや映画を作っているんですよ。サターンやDCの『外伝』などでも、シナリオ・プロットの段階からサンライズさんにご協力いただいて、ガンダムの正史と矛盾しないように作っています。
-例えば『外伝』のように、それまでなかったガンダムのエピソードというのは、サンライズさんとのやりとりで作っているんですか?
稲垣:そうですね。企画段階で原案をこちらから出すんですけど、史実とかぶってしまうシナリオはダメなんですね。なので、いろんな資料を熟読したうえで、「この時には事件がないから、こういう出来事があってもいいんじゃないか?」と考えて、プロットやシナリオをサンライズさんのガンダム担当にお話をして、いっしょに内容を詰めていきます。シナリオに関しては共同作業で作って、さらに監修もしていただいて、最終的には正史に盛り込んでいただけえうように毎回がんばっています。
◆オリジナルMSやキャラデザインは誰が作るの?
-イフリートのようなオリジナルMSのデザインも、バンダイで原案を出して、サンライズが監修するという形ですか?
稲垣:MSに関しては、すべてサンライズさんに発注しています。ただ、ガンダムタイプのMSを出したい、という要望だけは難しいですね。「ガンダムはアムロの乗るあの1機だけ」ですから。「じゃあ陸戦ガンダムって?」というと、あれはジムのバリエーションなんです。そのため、サターン版の『外伝』では、「陸戦ガンダムを元にして、新しいガンダムを作りたいんです」とサンライズさんにお願いしました。大河原さんにMSのデザインをお願いしたんですが、「ああいいですよ、ミサイルも出しましょうか」と快諾していただいて。実はそれが、ブルーディスティニーの胸にミサイルランチャーが装備された理由です(笑)
-オリジナルMSのアイデアを、ゲーム制作側から注文することはあるんですか?
稲垣:それは当然ありますよ。でも、「熱核ジェットホバーをつけたいんですけど」と言ったら、「それはドムだけなのでダメです」ということもありました。設定上の制限があるので、絶対に矛盾のない形にしつつ、ゲーム側の要望に近づけていくのが大切なんです。例えば『外伝』のオリジナルMS・イフリートの型番はMS-08で、実はグフ(MS-07)とドム(MS-09)の間を埋める形になっています。
-キャラクターデザインの場合は、どのように進めているんですか?
稲垣:そのあたりも全部、サンライズさんとの共同作業ですね。『外伝』の場合は土器手司さん(注:アニメーター)にお願いしました。
牛村:キャラクターイラスト作成はサンライズさんにお願いしているんですよ。『GジェネF』なんか、『ファースト』から『∀』まで、何人ものアニメーターさんが担当していて、例えば”ファースト”なら安彦良和さん、『Vガンダム』は逢坂浩司さん、『ポケットの中の戦争』は美樹本晴彦さん……ものすごい豪華です。
-『ギレン』では『0083』や『Z』のキャラクターが若返って登場することもありますが、調整はどのように?
牛村:キャラクターそれぞれですね。基本的には原作のデザインをリファインしています。
-ゲーム中のアニメムービーや、CGムービーも同じようなスタイルで?
稲垣:そうですね。こちらで描いた絵コンテを、サンライズさんに監修していただいています。アニメムービー制作自体はサンライズさんにお願いしていますが、CGムービーはサンライズさんとストーリーの打ち合わせをして、実作業はゲーム開発側で進めています。ちなみにPSの『Zガンダム』のムービーシーンでは、セル画とCGを合成したんですが、これが大変。アニメのほうはパースがおかしくてもかっこよく見えればOKなんですが、CGは歪むことなくキッチリ作られる。だから、セル画とCGが噛み合わなかったりして、何度も直しました。そのあたりはゲームならではの苦労と言えますね。
◆これからも進化を続けるガンダムゲーム
-ガンダムゲームの質は著しく向上してきました。その理由はどのあたりでしょう?
稲垣:以前よりもゲーム制作をしやすい環境になったことも要因でしょうね。発売日優先から、作品のクオリティを優先するように変わってきたんですよ。それに、ひとりのプロデューサーが担当するタイトルが減った分、担当タイトルにかける手間ひまが増えて、愛着が沸いてきたこともひとつの理由かもしれません。それから、ハードが進化して表現力が豊かになったことで、「作りたかったもの」が作れるようになってきた。ファミコン当時では、どうしてもムリだったところもあったはずですから。
-おふたりが現在手がけている、新作ガンダムゲームはどういうものですか?
稲垣:PS2『ガンダム』を作ったメンバーで、こんど発売される『ガンダム戦記』(PS2)と、PS2『ガンダム』の続編である『めぐりあい宇宙編(仮)』を作っています。後者は宇宙空間のACTとして、システム面から考えている最中ですね。ユーザーさんには、もうしばらくお待ちいただくことになりそうです。
牛村:僕のほうは具体的なタイトル名は言えないんですけど、何本か進めています。『ギレン』のような、大局的な戦略級SLGというものは、今後もやっていきたいと思っています。
-将来、ガンダムゲームはどのような方向へ進んで行くと思いますか?
稲垣:新しい方向性としては、例えば『GNO』のような、多人数参加型のネットワークゲームが挙げられますね。先日、『GNO』のチャット機能で「ヴィッシュって誰ですか?」と誰かが聞いていたんですけど、すかさず他のユーザーさんが「それはDCの『ガンダム外伝』に登場した~」と回答しているのを見たんですよ。ゲームを楽しみながら話ができるというのは、新しい面白さがあるんじゃないかなと思います。
牛村:SLGやACT以外にも、ガンダムならではの新しいものを作りたいという気持ちもあります。
稲垣:オリジナルストーリーのゲームは、これからも続けていきたいと思っています。ゲームによって、今まで知らなかったシリーズに興味を持って、原作アニメも楽しんでもらえたら、作り手としてもうれしいですね。
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補足
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>ちなみにPSの『Zガンダム』のムービーシーンでは、セル画とCGを合成したんですが、これが大変
YouTUbeにオープニングムービーがありました。参考になるかと。
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