『覇王ゲームスペシャル[71] 機動戦士ガンダム外伝Ⅱ 蒼を受け継ぐ者
テクニカルガイドブック』
より、千葉智宏氏によるオリジナル短編小説「蒼き騎士の探求」をお送りします。
紹介するのはエピソード2、3の予定でしたが
今回は2だけです。ゴメンね。
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2.事故
(ニムバスの回想)
クルストの研究所はフラナガン機関の中でも特殊な部類であり、
普通の人間にニュータイプ並みの戦闘能力を持たせるシステムの開発を目的としていた。
ニュータイプの戦闘能力を純粋に抽出し、それをコンピューターにプログラムすることで
一般の兵士が操縦しても、ニュータイプと同じ動きができる、というものである。
実験には”MS-08TX イフリート”を使用。
高性能だが、操縦の難しさと生産性に問題があり、量産が見送られた機体だった。
EXAMシステムの能力を最大限発揮できるよう各部が改造され、
”MS8-TX[EXAM]イフリート改”と呼称された。
私はそのパイロットとして配属され、サポートにマリオン・ウェルチというニュータイプの少女が充てられた。
私がコックピットにつき、マリオンは外からEXAMシステムにサイコミュで指示をだす。
このようにしてニュータイプの動きを学習させていくのだ。
実験を繰り返す日々が続く。
戦場で勇敢に戦うのに比べて騎士としての血が疼くこともあったが、
それでも”国の役に立っている”という認識が私の支えになっていた。
ある日。
実験の中、私はマリオンに元気が無いのが気にかかった。
「この戦いが終わっても、人類の戦いの歴史が終わるわけじゃないのね…」
意味深な言葉。彼女に何かあったのだろうか?
そして直後の実験で…事故が起きた。
マシンが突如、所かまわず攻撃を始めたのだ。
私の制御を全く受け付けず暴走する機体。
その動きに耐え切れず、1分とたたないうちに失神してしまった。
暴走は、5分後にはあっけなく終わったらしい。
機体自体が動きに耐え切れずオーバーヒートしたためだ。
なんとか一命を取り留めた私だったが、一番の被害者はマリオンだった。
EXAMとサイコミュで繋がっていた彼女の意識が、戻らなくなってしまったのだ。
研究所唯一のニュータイプを失ったことで、プロジェクトは中止になると思われた。
しかし…
その3日後、EXAMシステムは完成した。
それを搭載したイフリート改は、マリオンがいないにも係わらず
彼女がサポートしていた時以上の性能を発揮したのだ。
…クルストは一体どんな魔法を使ったのだ?
あれ以来、実験では暴走を起こすこともなく、
EXAMの兵器としての有効性は高いように思われた。
だが、当のクルスト博士は現状に満足していないようだった。
「あれでは、まだ足りない。あの暴走のような力が必要なのだよ…」
博士の呟きを、私は聞き逃さなかった。
そして…博士はジオンを裏切り、連邦へ亡命した。
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物思いにふける私を現実に引き戻したのは、
部下からの報告だった。
どうやら、連邦のEXAM搭載モビルスーツによって
友軍のミサイル基地が壊滅させられたらしい。
これにより、連邦のカリフォルニア・ベース侵攻部隊を
止める術はなくなった。
連邦のEXAMマシンが、既に稼動している。
思っていたより、事態は急を要するようだ。
奴はおそらく、このまま侵攻部隊に加わるだろう。
「よし、カリフォルニアベース向かうぞ。必ずそこに現れるはずだ!」
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EXAMシステム開発当時のエピソードが語られます。
・”ニュータイプと同じ動きができる”について
これはEXAMシステムの特徴として記述されることが多い表現ですが、
いまいち具体的ではありません。
が、今回のエピソードにて具体的に書かれた箇所があったので、引用してみます。
『モビルスーツの動きは、銃を撃つ、歩く、など一つ一つの動作が
あらかじめプログラムされている。そのプログラムされた動きを、
パイロットが選び出し組み合わせることで、人間に近い動きをすることができるのだ。
”EXAMシステム”は、その一つ一つの動きを、人間からニュータイプの
動きに置き換えたものだと思えば分かりやすいかもしれない
(もっとも、ニュータイプも生身の運動能力は常人と
変わるところはない)。
銃を撃つ動作一つでも、的確に、素早く、ターゲットを
捕らえることができるのだ』
・ニムバスとマリオンの関係
原作ゲームではニムバス、マリオン両者の関係は描かれませんでした。
その他メディアでは、どうでしょうか?
漫画版ではマリオンに自身の劣等感を見透かされて哀れむ言葉をかけられ、
小説版では、ニムバスはニュータイプへの劣等感の象徴としてマリオンを敵視、
自らの力を示すため婦女暴行していました(明確な表現は無し)。
この2つ以外で両者の関係が描かれる機会はほとんど無かったため、
両者の関係は漫画版及び小説版のイメージが強い方も多いと思います。
そんな人にとって、短編小説版で描かれる両者の描写はとても新鮮に映るかと思いますので、
二人の会話を本文より引用してみます。
「どうした、マリオン」
「ニムバス…この”EXAM”が完成すれば、戦いは終わると思う?」
「…おそらくな。このシステムが量産化されれば、
連邦との戦いは時をおかずして、ジオンの勝利に終わるだろう」
「…でも、それで人類の戦いの歴史が終わるわけじゃないのね…」
「なぜ、そんな事を言う?どうかしてるぞ。何かあったのか?」
「いいえ、なんでもないの…さあ、実験をつづけましょう」
マリオンの様子が気になって声をかけ、彼女の話を聞いてやるニムバス。
従来のニムバス像からは想像も出来ない会話をしています。
短い描写ですが、漫画版や小説版のように仲が悪かった様子はなく、
むしろ実験を通してお互いに信用を置いていた、とさえ伺えます。
公式・非公式はさておいて、こんなニムバスも新鮮で面白いですね。
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次回はエピソード3、4の予定。
ニムバスの視点から見た
ブルー1号機との対決、そして
これまた具体的に描かれる機会の少ない
連邦EXAM研究所襲撃の様子を紹介してみたいと思います。
[1回]
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