『覇王ゲームスペシャル[81] 機動戦士ガンダム外伝Ⅲ 裁かれし者
テクニカルガイドブック』
千葉智宏氏によるオリジナル短編小説「蒼き騎士と眠り姫」より
今回は4、5章をお送りします。
まともな更新は久しぶりですね。すいません。
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4.ユウⅠ
アルフとの通信により、オレは”EXAM”の秘密を知った。
そして彼の指示通り、ジオンのEXAM研究施設の全てを破壊した。
敵も機密保持のためデータを消去していたようで、
これでジオンに残る”EXAM”関連データは全て消え去ったことになる。
マリオンという少女の行方が気になったが、
「クルスト自身がマリオンに興味を無くしたためか
事故後の彼女の資料は残っていない」とアルフは答えた。
もう死んでるかもしれない?
…いや、恐らく生きている。オレにはそう思えた。
続いてモーリンからのブルー2号機発見の報を受け、
機体をコロニー外へと向かわせる。
モビルスーツでの、初めての宇宙戦。
そして、宇宙用装備であるビームライフルの使用も初めてだ。
不安要素は多い。
「ユウ、気をつけろ。ヤツはお前との直接対決を望んでいる。
2機の接触と同時に”EXAM”は発動するが、
お前のタイムリミットは5分だ。それ以内に勝て。
それからビームライフルだが…」
オレに作戦を説明するアルフの口調が、次第に熱を帯びていく。
彼も、”EXAM”を巡る戦いの終局が近いことを感じているのだろう。
「勝ってくれ。そして、死ぬなよ。
…オレは人付き合いが苦手で、
他人の気持ちなんて全然理解できない、オールドタイプの代表みたいなもんだ。
しかし、お前のことは気に入っているんだ。生きて、戻ってこい。
…もちろん、貴重な戦闘データもたんまり頼むぞ!」
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5.ユウⅡ
宇宙港の真下で、オレはブルー2号機と対峙する。
2号機の蒼い機体は、両肩が真紅に染められていた。
「連邦のパイロット!こんな所まで追ってきてくれるとは、感謝の言葉も無い。
どちらが本当に”EXAM”に認められた者か、ここで決着をつけてやる!勝負だ!」
奴からの通信と同時に、システム発動のランプが灯る。
時間は無い。
機体を加速させ2号機に仕掛けるが、
宇宙での戦いは奴のほうが一枚上手だった。
上下左右、360℃の全方位を活かした攻撃に、オレは翻弄される。
だが、負けるわけにはいかない。
乱射されるミサイル。
ビームサーベル同士のぶつかり合い。
”EXAM”の力を借りて、2機のブルーは激突する。
激戦の中、オレの放ったビームが2号機の左脚に命中した。
「直撃を受けただと!
…貴様のようなヤツに、騎士である私が負けるわけがない!」
オレはとどめを仕掛けるが、敵機は異常な速さと反応で回避をする。
暴走か!
「ははっ、ますますマシンに力がみなぎってくるのがわかるぞ!
やはり”EXAM”の真の力を呼び覚ますことができるのは、私なのだ!」
奴は機体への負担を無視した動きで、狂気に取り付かれたように3号機を攻め立てる。
これが、クルストの求めた”EXAM”の姿か!
やはり”EXAM”は狂気のマシンなのか!?
…しかし!
「マリオンが求めたのは、こんなものではないハズだ!」
「真の理想を持たぬ連邦の雑兵が、マリオンの名を口にするな!
マリオンと私が作りあげた”EXAM”は、
騎士である私にこそ相応しいのだ!」
「他人の犠牲の上に成り立つ理想や正義など、何の価値もない!」
2号機の振り下ろすビームサーベルを、こちらもビームサーベルで受け止める。
ビームのぶつかり合い。両機の力が拮抗する。
「マリオン…君の信ずるもののために力をかしてくれ!」
気がつくと、一人の少女が目の前に立っていた。
その手がオレの握る操縦桿をそっと後押しする。
これは幻覚か…?
次の瞬間、3号機のサーベルは2号機のサーベルを斬り裂き、
そのまま2号機をを袈裟切りした。
「なぜだ…”EXAM”に選ばれた騎士である私が、
連邦の雑兵ごときに遅れを取らねばならぬのだ…
このままでは死なん!お前も一緒に来てもらうぞ!」
爆発寸前の2号機が3号機に抱きつき、そして…
オレは巨大な光を見た。
その中に一人の少女がたたずみ、オレに満面の笑みをみせた…
宇宙世紀0080、1月1日。
月のグラナダで終戦協定が締結。
ここに一年戦争は終結した。
ブルーと”EXAM”システムがどうなったのか、
公式の記録からは見つけ出すことができない。
眠り姫は歴史の中で完全な眠りについたのだ。
それは、安らぎに満ちたものに違いない。
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※ 『宇宙世紀0080、1月1日~』からの記述は本編よりそのまま抜粋。
◆4.ユウⅠより
原作ゲーム3巻の第4話冒頭、及び第5話の冒頭に位置するエピソードです。
・アルフのツンとデレ
千葉版アルフはクルスト並かそれ以上にマッド・サイエンティストですが、
そんな彼の人間臭さを感じさせる描写があります。
今までの冷徹なイメージから一変、ユウに対して本音を語るが、
それでも照れ隠しから「もちろん、データも頼むぞ!」と言ってしまう彼はまさにツンデレ。
また、自らをオールドタイプの代表と語るアルフ像は、
皆川ゆか版小説のアルフに通じるものがありますね。
・ビームライフルについて
地上でビームライフルを使うと周りの大気が燃え上がって周囲に余計な被害がでるから
地上戦では使用できない、といった解説があります。
というわけでビームライフルは宇宙戦用装備の扱いになってますが
1stガンダムの頃からビームライフルは地上でバンバン撃ってるわけで
この設定はちょっといらない気がします。
・シミュレーター(この項はちょっと本題から外れます)
「MSによる宇宙での戦闘経験は、シミュレーターぐらいしかない」と語られます。
このシミュレーターって、もしかして例の対ガンダムシミュレーターのことを指すのかな?
…なんつって
対ガンダムシミュレーター自体はゲームクリア後のオマケであるため、
あのやり取りを正史として捉えるのはアリなのだろうか?
最近はユウがアムロ&ガンダムにシミュレーター上で勝利したことが
設定として記述されることが多く、
また、設定資料集によると、ユウが勝利した様子を映した写真が存在しているようなので
ブルーディスティニーの正史としては、ありえるようです。
でも、いつごろ行われた対戦なのかという厳密な設定はありません。
オマケ程度で明確な設定がないのなら、
そこを突き詰めて妄想してみるのも楽しいかもしれません。
◆4.ユウⅡより
・画像より
背後から放たれたビームをかわす3号機。
高山瑞穂描きおろし、迫力のカットです。
ボールもちゃんと描かれてますね。
(よく見ると180㎜キャノン砲を装備したK型っぽいデザイン)
・ユウとニムバスとマリオン
千葉版ニムバスはマリオンをパートナーと思っていた、というのは
これまで語られた経緯より推測できますが、
「マリオンと私が作りあげた”EXAM”」というセリフに、
その思いの丈が表されています。
そして、「”EXAM”は騎士であるこの私にこそ相応しい」というセリフに続きます。
千葉版のニムバスは皆川版、高山版と違い、
自己欺瞞でも自己正当化でもなく本気で騎士道精神に則っているため、
正義のために二人で築き上げた”EXAM”は正義を執行する自分にこそ相応しく、
それ以外の者…まして、理想を持たない雑兵ごときが使うのは
絶対に許さない、といった感情がニムバスにはあったのではないでしょうか。
ユウに1対1の決闘を申し込んだのは、そんな想い故なのかもしれません。
ユウとニムバスの戦いは
「マリオン、君の信ずるもののために力をかしてくれ!」
というユウの問いに対しマリオンが答える形で決着します。
”EXAM”に選ばれたはずなのに連邦の雑兵に遅れをとってしまった、と思うニムバス。
でも本当は、マリオンはニムバスを選んでおらず、
彼がが負けたのは、マリオンはユウを選んだからだった。
この事実を知らないまま死んだニムバスは、ある意味幸せだったのかもしれません。
あ、あと些細なネタですが
ニムバスの「直撃だと!この私が直撃を受けただと!」のセリフは
ギレンの野望にて、ニムバスの被撃墜時の
セリフで使われていましたね。
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これにて千葉版ブルーの物語、本編ははおしまい。
次回は、「蒼き騎士と眠り姫」の+αの部分である、
「眠り姫」「2人の騎士と鍛冶屋」の章を紹介。
ブルーの物語を童話風に描く、ちょっと変わった雰囲気の短編です。
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